第9回 事業を成功に導く思考

 これからの医療福祉機関の発展とそのサービスを購入する顧客が少しでも高い満足が得られるようにするために民間企業の経営手法を医療福祉事業に応用することを試みてきました。それが、誰が考えてもすぐに分かりそうなほど、当たり前のことだったということに後になって気付くことがあります。 
 自分自身の事業を客観的かつ分析的に見ることは、非常に難しいことです。しかし、他人からすれば、それはとても簡単なことの場合が多いのです。これが、コンサルティングを行なう上でのベースとなります。ほとんど全ての事業には、未だ手が付けられていない成長のチャンスや、不合理な負担が存在していることもまた事実です。
 問題を抱えた事業体に携わることになったコンサルタントは、ほとんどの場合、各事業体が、商品や部門顧客の種類あるいはマーケティングの方法等、それ自体の価値以上にコストが掛かっており、削減されるべきものを抱えていることに気付きます。このことは、ほぼ全てのケースに当てはまります。皆さんの事業をじっくりと分析してみたらどうでしょう。現在、行なっている事業を様々な側面から、それぞれにどれだけのコストが掛かっているか、細かく検討してみてはいかがでしょうか。
 腰を据えて自分自身の事業を分析する際、大抵の場合、事業構成には、80/20の考え方が当てはまります。もしかしたら皆さんの事業の20%が、収益の80%を稼いでいるかも知れないのです。そして、皆さんの抱えている問題の80%が、皆さんの事業の20%の部分に起因しているかも知れないのです。
 この場合でも、その両方の20%が同じ部分でない限り、皆さんの事業は安心だと言えるでしょう。難しいことですが、それを受け入れられるように十分な心構えをしておく必要があります。
 例えば、音楽プロダクション・ビジネスから完全に撤退し、印刷業へと転換した企業があります。この企業における音楽ビジネスは、売上のかなりの部分を占めていて一見重要に思えるのですが、利益の上では、ほんのわずかの部分にしかならず、会計上の問題では、かなりの部分を占めていました。また、音楽ビジネスを続けるには、別の機材や在庫が必要であり、10%に満たない利益を稼ぐために、利用できる在庫予算の相当な部分を費やしていました。このような分析を受けて、この企業は「音楽ビジネスから撤退しよう」と決めたそうです。これは、この会社の事業を、文字通り、再定義し、再設計するものでした。
 問題企業の経営再建から学ぶもう一つの教訓としては、ほとんどのビジネスにおいて、商品あるいはマーケティングの方法によって、ブレークスルー(現状打破)を実現できるということです。
 皆さんが、事業展開を成功に導いていきたいのであれば「不合理な負担」に目を光らせて、可能ならば、それを排除していかなくてはなりません。皆さんのブレークスルーが商品によるものになるのかマーケティングによるものになるのかは、事業体の置かれている現状と目指すものによって異なりますが、これらは、ほとんどの事業展開に存在するものです。
 実際のところ多くの場合、経営再建の核心は、このようなブレークスルーによるものなのです。それは、顧客にアピールするように商品のパッケージを新しくしたり、新商品や新サービスを打ち出したりするのかもしれません。もしかしたら、現時点での商品やサービスについて、全く新しいマーケティングの方法を見つけ出すのかもしれません。
 通販会社としての収益が3年程前にそのピークを迎えていた米国のある企業がありました。この企業がさらに成長を続けるためには、商品によるブレークスルー(おそらくは、顧客の興味を引くような、全く新しい商品ライン)もしくはマーケティングによるブレークスルーが必要でした。
 また別の企業では、数年前に自社の事業で、大きなブレークスルーを成し遂げました。他社に先駆けて、ベストセラーの書籍を元にしたテープ・アルバムという新しいタイプの商品を売り出し、劇的な成長を遂げました。インフォメーション・マーケティング・ビジネスという分野で、マーケティングの方法によるブレークスルーを生み出したのです。
 事業展開を行なうには、マーケティングをしようとする個々の商品やサービスに関して、それを売るのに、新しいマーケットが他にあるのか、あるいは、新しいマーケティングの方法が他にあるのかを常に考えていなければならないということです。それには、ブレークスルーに沿ってマーケティング戦略を変化させていかなければなりません。
 さらに他の企業では、従来のコーリング(いわゆる訪問販売)という手法ではここ数年の売り上げが落ち込んでいました。主な要因としては、より多くの女性が外に働きに出るようになったためで、訪問販売員が訪ねて来ても、家には誰もいなくなったためです。また、女性が多様な職種で収入を得られる環境になったこともあり、訪問販売員を採用し、雇用し続けることが、これまで以上に難しくなってきましたこともありました。
 これらの問題に直面したこの企業では、ファッション・カタログを使って、通販によるマーケティングを始めました。自社の訪問販売員によって集められた顧客名簿を活用したことで、この企業は女性ファッションの通販会社になることに成功しました。そして、それによって、訪問販売員の組織を飛び越えて、直接、顧客に商品を販売するようになったのです。
 最近、この企業では仕事が終わった後、自宅を訪問して商品を売るのではなく、訪問販売員が、その会社の同僚に同社の製品を販売できるような方法について、検討中だそうです。さらに自社の名前や評判を利用して、全く別の商品をシリーズ化したものを小売店に卸しています。
 一方、この企業が訪問販売員による販売を続けたいと考えているのなら、追求すべき戦略があります。
 第一に、訪問販売員の収入機会を大幅にアップすること。そして、第二に、女性だけでなく男性をも巻き込んで、夫婦がチームを組んで、一緒にパートタイムでその企業の仕事ができるようにすることです。
 第1の目標は、マルチレベル・マーケティング(MLM)の企業のように、歩合制によって給与が変わるようにすれば実現可能です。また、買収によって商品ラインを拡大することも有効でしょう。私がこの企業の経営者ならば、買収という方法を考えるでしょう。買収によって、二つの事業体の商品、販売組織を結集させるのです。
 第2の目標についても、男性がマーケティングするのにふさわしい商品を売っている企業を買収することで達成できるかもしれません。
 といっても、この企業の経営陣が、ブレークスルーの可能性について、慎重に検討して様々な手法を試みていることは明らかです。これは、ビジネスを再定義し、より良いものにしようとすることであり、今日の急速に変化する事業展開における環境で成功を収めるのに不可欠の考え方なのです。
 商品のパッケージのやり方を新しくしたり、新商品や新サービスを打ち出したりと、事業体が既存顧客の関心を引くために行なっている例をいくつか紹介しました。
 また、もう一つの有効な戦略としては、既存の商品やサービスをマーケティングするという全く新しい方法を見つけることであるとも指摘しました。それでは、これらを成功に導くための思考とは何でしょうか。
 それでは、ここで簡単なクイズを出しましょう。このクイズは、多くの思考が陥りがちな問題点を明らかにし、成功するためにはどのように考えなければならないかを示したものです。
 まず、数字の「1」とアルファベットの「X」を紙の上に書いてください。それから、ここに1本、線を足して「6」にするようにしてみてください。
大抵の人は、「X」の後ろに「1」を書いてみたりしますが、なかなか答えが導き出せません。それでは、答えです。「1」と「X」の前に「S」を書くと「SIX」、すなわち「6」になります。
 中には、「1本の線と言ったじゃないか!」と抗議する人もいるでしょう。はい、確かに言いました。ですが、1本の線を書くように言っただけで、真っ直ぐの線とは一言も言っていません。これは、クイズを出された人が1本の線を「真っ直ぐな線」として頭に浮かべてしまっただけなのです。「S」は、1本の曲がった線に他なりません。
 すなわち、このクイズに正解するには、型にはまって、習慣になってしまった考えから抜け出し、外に出て行く力を持つ必要があったということです。
 このクイズのような典型例は、鉄道業界です。彼らは、自分たちの産業が、運輸交通業であるという認識を持てないでいます。あくまでも鉄道業だと、間違った考え方をしているというわけです。
 事業が成長し、繁栄を遂げるに連れて、おそらく何度も、自らの事業を再定義することになるでしょう。
 例えばマクドナルド社は、元々、ハンバーガーショップでしたが、今ではその実態は、巨大かつ強力な商業用不動産会社となっています。マクドナルド社は、フランチャイジーへの賃貸により調達した資金を投資して、資産を構築しているのです。
 自分の事業が「何なの」「どうなるべき」「どうなりうる」「どうなるであろうか」と繰り返し考え続けることこそ、極めて有効な成功への戦略と言えるのです。とはいえ、どのように再定義するかに関わらず、単純なエクセレンス(優秀さ)に勝る戦略は、他にありません。
 私は、時々がっかりすることがあります。それは事業展開でエクセレンスが欠けていたり、あるいはエクセレンスがあるように見せようという配慮が欠けていたりしている事業体を見たときです。ですが、時折、品質にとことんこだわっている事例に出会うと、嬉しくなります。
 医療福祉機関においても顧客からの要求は、厳しくなってきています。つまり、質の高い商品や顧客サービスを作り上げるために広告・広報活動に割くのと同じくらい多くの時間努力資金注ぎ込んでいる事業体は、その決断の真の成果を目にすることになります。
 この間、知人からこのブログに対して「柔らかい言い回しだけど、言っている内容はキツイよね」というコメントをもらいました。その際、私はこう返答しました。「頑張っている従業員が報われ、活き活きと働き続けられる環境と、この医療福祉機関のサービスなら受けたいというリピーターを増やしたいからだ。そんな医療福祉機関を少しでも増やしたいと思っているからだ」と…
 人間が生まれてから一生の間に医療福祉機関のサービスを一度も受けずに過ごせる人は、ほとんどいないのですから。
 余談ですが、今年の3月30日(金)にグランドオープンする東京ミッドタウン(東京都港区:旧防衛庁跡地と港区赤坂9丁目の再開発エリア)には、米国でトップクラスの医療機関と言われているジョンズ・ホプキンス・クリニック提携したクリニック入居する予定だそうです。あの「ザ・リッツ・カールトン東京」が入る東京ミッドタウンに入居するクリニック…一度は行ってみたい気がします。

第8回 Pマーク

 皆様は“プライバシーマーク(以下Pマークとする)”というものはご存知でしょうか。平成17年4月1日から「個人情報保護に関する法律」(平成15年法律第57号)が全面的に施行され、国内のほとんどの事業者がこの法律に法人として適合する義務を負う環境となってきました。それに伴い、民間企業では認定を受けている事業体が増え続けています。
 このPマークは、日本工業規格(JIS)定めるJIS Q 15001「個人情報保護マネジメントシステムに則って個人情報に関するマネジメントシステムを整備し、運用している事業者であることを認定して、個人情報について適切な保護措置を講ずる体制を整備している事業者であるかを審査認定するものです。認定された事業者には、その旨を示すPマークを付与され、事業活動に関してPマークの使用が認められます。またPマーク制度の目的は、事業者が個人情報の取り扱いを適切に行なう体制等を整備していることを、消費者の目に見えるPマークで示すことで個人情報保護に関する消費者の意識向上を図ることでもあります。このPマークの付与は、事業者(法人)単位で付与されます。
 ご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、保健医療福祉機関(病院、一般・歯科診療所、医学・薬学系教育機関及び研究所等、調剤薬局、検査センター等、健康保険組合、国保連合会や支払基金審査支払機関、介護施設サービス事業者、介護在宅サービス事業者、その他、保健医療福祉分野に関連する事業者)においても同様にこの制度があります。
 保健医療分野(含福祉分野)Pマーク制度は、基本的に民間企業のPマーク制度と同様ですが、JIS Q 15001:1999に準じて策定された保健医療分野のPマーク認定指針を適用範囲とする保健・医療に関する事業を対象とする場合に、民間企業のものとは区別されています。つまりその適用範囲が一般の事業者では取り扱わない特定の機微な個人情報を主として取り扱う事業者(取り扱う全ての個人情報の5割以上)が対象となるわけです。Pマークが付与される対象は、国内に活動拠点を持つ事業者でなければなりません。このことから保健医療福祉分野の事業は、サービス業に該当するということになります。
 この制度は、資本金もしくは従業員のいずれか一方を満たせば中規模事業者に該当することになります。小規模事業者の場合は、常時使用する従業員数が20人以下の事業者がこれに該当します。
 医療法人や財団法人等、資本金がない場合は、従業者数で判断されます。従業者数は、給与支払いの有無に関係なく、教育対象となる役員、派遣従業員、パート従業員、アルバイト、ボランティア等、その職場で働く全ての人を含みます(人数が変動する場合は、過去1年間の最大数でみられます)。
 この制度は、1回の認定によるPマークの付与期間は2年間で、以降2年ごとの更新制を取っています。ただし運用に問題がある場合は、有効期間内であっても付与認定を取り消されることがあります。
 さて、いつもこのブログで登場する介護老人保健施設の施設長がサテライトでやっている株式会社では、個人情報の保護方針を大々的に掲げていながら内部では、それにそぐわないことが行なわれています。例えば、預かっている個人情報に関して、従業員には個人情報の取り扱いに十分配慮するよう言っておきながら、その施設長が気に入っている人物は、プリントアウトしたものをシュレッターにかけずにそのままゴミ箱に捨てています。シュレッターにかけて個人情報保護に努めている従業員がそれを指摘すると、「もう終わった仕事だから大丈夫」等と言って聞かずにそれを続けています。責任感の強い従業員が指摘し続けると、いつものように逆ギレ状態になり、「施設長に言うわよ!」(この場合、株式会社なので社長なのでは?)という始末です。それを受けた施設長も「そういう細かいことを言わないように!」一緒になって責任感の強い従業員に対して逆ギレしているのです。結果としてその責任感の強い従業員は、この株式会社を去っていきました。
 従業員が業務上必要で個人情報を求めても提示を拒み、その施設長と彼が気に入っている従業員(重鎮たち)に気に入られてさえいれば、例え外部の取引先であっても預かっている個人情報を安易に譲渡してしまっているのです。これは、組織としてというよりも人としてやってはならないことです。
 このサテライトの株式会社では、何に使うのかは定かではありませんが、医師会の名簿を入手しようとしているようです。そもそも医師会を問わず組織の名簿は、メンバー以外には入手することはできないはずです。ですが、この株式会社が何らかの方法で入手できたとしたならば、それは、非常に恐ろしいことです。なぜなら、このような個人情報の管理体制のところであれば、例えばコピーをとったものなどがシュレッターにもかけられずにそのままゴミ箱に捨てられるだけでなく、その施設長と彼が気に入っている従業員(重鎮たち)に気に入られてさえいれば、外部の取引先であっても何の躊躇もなく手渡される可能性が極めて高いからです。サテライトの株式会社でこういう状態なのですから、彼が施設長をしている介護老人保健施設でも同様のことが行なわれている可能性があることは、容易に推測できます。もし個人情報の漏洩が発覚した場合は、また「ごめんなさい」の一言で済ませるつもりなのでしょうか。そして、それを追求すると「初めてのことだから仕方ないじゃない!」などと言って逆ギレしてしまうのでしょうか。実に恐ろしいことです。
 このような個人情報の管理体制では、当然Pマークの付与は認められません。例えその場しのぎで認められたとしても有効期間内に付与認定を取り消されるか、更新はできません。また「そんなの付与されても、意味がない」等と屁理屈(子供の言い訳)を言うのが関の山でしょう。
 皆さんの法人では、このようなことが行なわれていないと思いますが、保健医療福祉業界は、どの業界よりも個人情報の取り扱いには最も重きが置かれなければならないところです。
 平成18年5月に公表された経済産業省の『経済産業分野の事業者における個人情報の保護に関する取組み実態調査2006』によると、55%の事業体が委託先のPマークの認定の有無を何らかの形で考慮しているという結果が出ています。
 顧客から選ばれる時代となった今こそ真のサービス業として一歩でも先を行くためにも皆さんの法人でもPマークの付与について一度検討してみる価値はあるのではないでしょうか。

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