第15回 難しい苦情に対応するには・・・
- 2007-10-11
- 05:01
本題に移ります。前回は、顧客サービスの外交官(Customer Service Diplomat)として成功するための5つのガイドラインをベースにして顧客関係(Customer Relation)を築いていく必要性についてお話しました。
今回は、前回お話した内容を踏まえながら、顧客からの苦情に対応する方法についてお話したいと思います。前回と同様に5つのガイドラインをお話しするのですが、その前に考えていただきたいことが2つあります。
1つ目は、皆さんや皆さんの法人の誰か、もしくは皆さんの法人がサービスを提供する際に使われている製品を納品している取引先が何かの間違いを犯したことで、皆さんと顧客との関係が永遠に損なわれることは滅多にないということです。
何年か前に米国の国防総省で欠陥ゼロ・プログラム(Zero defect program)という言葉が盛んに使われたことがあります。言葉としては響きも良く、それを目指して努力することは無駄ではありませんが、常に欠陥を出さずにいることは不可能に等しいものです。人間が行なうものである以上、判断や行動、サービス等でエラーが起きてしまいます。これは、決して品質が劣悪でも仕方がないと言っているわけではありません。
ここから、優秀であることは素晴らしいことだと思いますが、ただ優秀であることと完璧であることとは全く別な物ということが言えます。だからこそミスが生じてしまうのです。そして、そのミスが誰のミスでも、皆さんあるいは皆さんの法人の従業員のミスによって不満を持った顧客に対応しなければならないこともあるはずです。この時点で、そのミスを犯したのが誰なのかは、顧客にとってはどうでも良いことなのです。ここで重要なことは、ミス自体によって顧客が失われるわけではないということです。それは、顧客の苦情をどう扱うかしだいということです。つまり、不満を持った顧客を扱う外交(Diplomacy)が成功するか、失敗するかによって、顧客を維持できるかどうかが決まります。
実際に、献身的で才能のある顧客サービスの外交官が顧客からの苦情に対応したことで、その顧客が、ミスを犯す前よりも得意客となるケースが多々あります。顧客の苦情処理について単に義務であるとか、ビジネスや業務の一環と捉えるのではなく、顧客関係をより良いものにするチャンスとして考える必要があります。
2つ目は、顧客からの怒りの激しさは、皆さんや皆さんの法人にはほとんどと言って良いほど関係がないということです。ほとんどの場合は、イライラやフラストレーション、ストレスの溜まり具合に反映しています。
皆さんの法人との間のトラブルは、例えて言うなら「ラクダの背骨を折る最後の1本のワラ」とでも言うのでしょうか。これは、ラクダの背に最後に載せるのが例え1本のワラであっても、限度を超えればラクダの背骨が折れるということです。つまり、「我慢の限界」に過ぎないということです。
顧客が苦情を言う背景には、もしかしたら朝食に作った目玉焼きが焦げすぎたことだったり、交通渋滞や駐車違反の切符を切られたとか、近所同士のトラブルだったりするかもしれません。そんな怒りの矛先を皆さんや皆さんの法人の従業員に向けている場合もあります(従業員同士でこれをしていては、困りますが…)。そして、顧客はこう言うでしょう。「だって、他に誰もいないじゃないか」と…皆さんの法人との間のほんの些細なトラブルが、顧客のストレスの許容レベルを超える最後の1本のワラになってしまう可能性があるのです。
皆さんの法人は、自分たちが怒られていると思わないだけの知恵を持たなくてはなりません。顧客の話を親身になって聞き、その怒りの本当の理由を理解し、十分に結果のことを考えて顧客に反撃したりしないようにしなければならないのです。顧客サービスの外交官として成功するには、正しい意見であっても通用しない状況や人々と対応しなければなりません。
それでは、冒頭でお話した顧客からの苦情に対応する方法における5つのガイドラインについてお話します。
1)顧客と喧嘩をしない
「お客と喧嘩しても勝ち目はない」という古い諺があります。この諺が意味することは何でしょう。それは、顧客には、「今後は他の店で買い物をする。ここには二度と来ない」という究極の台詞があります。そして、顧客にはたとえその苦情が理屈に合わないものであってもメディア(含口コミ)を通して報道されたり、告訴にまでいたるケースもあります。それが、根拠のない苦情であっても、そうなった場合、それへの対応には時間と費用が掛かり、皆さんの法人の体面を傷つけることにもなります。そのようなコントロールのできない状況に関わることは、皆さんの法人にとって何のメリットにもなりません。
顧客と喧嘩をすれば、顧客の怒りは大きくなってしまいます。喧嘩腰で話しても、相互の敵意がエスカレートするだけです。その結果、顧客の憎しみをエスカレートさせても皆さんの法人が損をすることになるのです。
皆さんも子供を相手に大声で怒鳴っている母親を見た経験があると思います。子供を相手に大声で怒鳴ってしまったら、その時点で母親の負けになります。その母親は、子供のレベルまで、自分を引き下げてしまったのですから…この母親は、「権威と優位性」「成熟という優位性」「母親としての役割を持つ優位性」さらには「沈着な態度という究極の優位性」のすべてを放棄してしまっているのです。顧客を感情的な言い争いに追い込んではいけません。例の介護老人保健施設の施設長とその重鎮たちは、まさにこの母親と同じなのです。このブログを真剣に購読している皆さんには、役割の優位性があり、沈着な態度という優位性があるはずですから…
2)正しいことよりも、成功することが重要
何よりも、望ましい結果を引き出すことを最優先にしなくてはなりません。特にプライドとか自尊心などというものに構う必要はありません(自己顕示欲は問題外)。苦情への対応における望ましい結果とは、顧客の怒りを鎮めて問題を解決することで顧客を失わないことです。顧客に馬鹿げた苦情を言って悪かったと思わせたり、顧客より知識が豊富なことをひけらかしても、望ましい結果には決して結びつきません。
苦情への対応では、「ちゃんと教えてやった」かで、成功したかを判断するのではなく、望ましい結果が得られたかで、成功したかを判断する必要があるのです。
1)と2)にもう一度、目を通してみてください。何かが見えてきませんか?分かった方は、顧客対応レベルがかなり高いと言えます。この内容を台詞で表現すると「お客様の苦情の内容は、良く分かりました異議を唱えることなく、できるだけ迅速にこの問題を解決できるよう精一杯お手伝いさせていただきます」となります。ここで注目すべき点は、顧客の苦情に「賛成です」とは一言も言っていないということです。単に「良く分かった」と言っているのです。
喧嘩をするためには、最低でも2人の人間が必要です。こちらが相手にしなければ、顧客もいつまでも怒り続けるわけにはいきません。通常であれば、怒鳴ったり、文句を言ったりしているうちに、しだいに怒りは収まっていきます(そうでない特殊な人も稀にいますが…)。多くの場合、顧客は、実際の問題に対して起こっているというよりも、苦情を言うことで喧嘩をしなければならないと取り越し苦労をして怒りを増幅させています。皆さんが顧客の予想していたような抵抗を示さないことで、顧客の怒りは消え去ってしまうでしょう。
3)積極的な聞き手(active listener)になる
苦情対応では、話すことよりも聞くことの方が重要だということです。顧客としては、途中で話の腰を折られることなく、自分の話を最後まで聞いて欲しいと思っています。苦情を聞かされる方としては、1分が1時間のように感じられるかもしれません。しかし、その時間が長く感じられたからといって、我慢できなくなってしまってはいけません。
積極的に顧客の話を聞くことで、自分の話に関心を持っていることを顧客に分からせることができます。顧客の話に心から関心を持った積極的な聞き手になることで、顧客に敬意を持っていることが示せます。顧客は、自分が大切にされていると感じ、皆さんが問題に対処すると約束した時に、その約束が信用できると感じるのです。積極的な聞き手になるためには、背筋を伸ばして座り、有効な身振りを使い、時にはうなずいたり、相槌を打ったり、身を乗り出したりして顧客の話を促します。「良く分かります」などと言いながらメモを取るのも有効な手段と言えます。
脱線しますが、私自身、記者時代の経験ですが、インタビュー相手によっては、話をするのが苦手な人もいました。そういう人にも多くを語っていただかなくてはなりません。そのために突破口となるようなもの、例えば社長室に飾ってある掛け軸や壷などについて聞きます。大半は、相手の嗜好性が表れていますから、それを聞かれて無愛想にする人は滅多にいません。そこを糸口として相手に自分から話したいという環境を作っていきます。
インタビューが終わるころによく言われることがあります。「兼平さん随分話しますね」と…実は、違うのです。私が話している時間は、総時間の10分の1にも満たない時間です。話をするのが苦手と言われているインタビュー相手が話している時間がほとんどなのです。これも、相手に錯覚させることでストレスを感じさせずに話をさせるためのひとつの手法だと思いますが、インタビュー時間が予定時間よりも大幅に伸びてしまうのが難点です。
4)顧客の個性に合わせる
人によって性格がそれぞれ違っていることは周知のとおりです。事実や数字あるいは技術的な説明に関心を示す論理的で分析的な人もいます。非常に感情的な人もいますし、人間関係を重視する人もいます。
例えば論理的な人に対しては、このような言い方ができます。「弊社の取引の大半は、リピーターのお客様とのものです。ですので、いかなる理由にいたしましても、お客様を失うことは、私どもにとりましても極めて深刻なことでございます。この状況を改善するために精一杯努力するということを信じていただけるものと存じ上げます」
非常に感情的な人に対しては、このような言い方ができます。「私は、お客様との関係をとても誇りに思っております。そのためにも、この問題の解決に全力を尽くすことをお約束申し上げます」
冷静で分析的な人に対して感情的なアプローチを行なったり、反対に感情的な人に対して、論理的なアプローチを行なったりしても話は上手く進みません。その顧客がどのようなタイプの人かは、その服装や振る舞いから感じ取ることができます。それが電話で話していても、言葉遣いからその人の性格についてヒントが得られます。ほんの少し考えてみれば、このことが簡単に活用できるということが分かります。この考えを実行することで仕事がもっと面白く感じるかもしれません。
5)確約が得られるまで、顧客の怒りは収まらない
例えば、皆さんが自分で組み立てる本棚を買ったとしましょう。重い箱を車で引きずり、家に持って帰り、それを家の中まで運びます。箱を開けて説明書を念入りに読んで、必要な工具を集めて、本棚を組み立てようとした時に小さなビニール袋に入った部品が箱の中に入っていないことに気づきます。そして、店に電話を掛けて店員がこう言ったとします。「どうすれば良いか分かりません。その部品がどこで手に入るのか分からないのです。後で掛け直しますから、電話番号を教えてください」と…
皆さんならどう感じるでしょうか。このような対応に満足できるでしょうか。もし不満と感じるのであれば、なぜ不満と感じるのでしょうか。理由は簡単です。それは、何の確約も得られなかったからです。つまり、何時までに返事をするとのはっきりした約束がなかったからです。
もし、この店の経営者がこのように言ったならば、満足できるのではないでしょうか。「その部品がどこで手に入るのかが現状では分かりかねますので、この問題が解決できるよう、すぐお調べして、今日の午後3時までに必ずこちらからお電話させていただきます。お電話番号をお伺いできますでしょうか」
もちろん、これでも理想的で完璧な対応とは言えません。ですが、それでも時間を確約することで、先ほどの店員よりは、ましな対応になったのではないでしょうか。曖昧なまま何の確約もせずにいれば、顧客の怒りは収まらないだけでなく、さらに怒りが増してくるかもしれません。具体的で明確な約束を示すことで、顧客の怒りを和らげることができます。
どこまでストレスに耐えられるかは、人それぞれです。その許容限度の最後の一線を越えさせる何らかの出来事が起こった時、人は怒り、激怒へと突入してしまいます。苦情を言いに来た顧客は、その沸点近くまでイライラが募っている場合が多々あります。皆さんの法人で実行する顧客サービス外交(Customer Service Diplomacy)しだいでは、こうした顧客の怒りが沸点に達するのを防ぐことも可能なのです。そうすることで、顧客も、皆さんの従業員も、そして皆さんの法人も助かるのです。前回に引き続き、今回お話したガイドラインを実行することで、難しい顧客の信頼を勝ち取るのに役立つことでしょう。




