第16回 仕事で成功しやすい性格(顧客サービス外交 最終章)
- 2007-12-13
- 05:35
各メディアでも報道されて、皆さんもご存知かと思いますが、10月末に医療法人社団りんご会東十条病院(東京都北区:総合病院、350床、馬場操院長)が倒産しました。私が以前から提唱してきていることが、またもや現実化してしまいました。
さて、今回は今まで顧客サービス外交(Customer Service Diplomacy)についてお話してきましたが、これを総括してみたいと思います。
ある大企業でのお話しですが、この会社の発送課で、課長補佐のポストに空きが出ました。発送課の課長が探したところ、十分な経験と将来の課長候補になり得る人物は、部内に一人しかいませんでした。その人物は、会社で最古参の発送係で、2番目に古い発送係よりも、3年も前から働いている人でした。
人事部長が「課内から昇進させるというのが、我が社の変わらぬ方針じゃないか。そんなに長い経験があるのに、どうして昇進させたくないのか」と訊ねたところ、それに対して課長は、こう答えました。「発送課で仕事をしている間、彼は、仕事に関して新しいことを学ぼうという意欲を、見せたことがありません。それに、昇進についても、それほど関心が無いようです。彼は、とても頭の良い人間ですから、与えられた仕事はきちんとこなしますが、与えられた仕事をこなすだけでは、十分ではありません」と…
その人は、より高給が得られるポストへの昇進のチャンスをふいにしました。それは、彼が、自分が今やっている仕事の重要性を認識できなかったからです。彼は、自分の仕事から、どんなチャンスが得られるのかが分かっていなかったため、ただ、日々をやりすごすのに十分な仕事しかせず、昇進へとつながるような、もうひとがんばりの努力をしなかったのです。
米国の有名な能力開発者であるEarl Nightingale氏は、「私たちは、より良いチャンスを求めて、どこか遠いところにある青々とした牧草地(今よりも良い状態)を探そうとする傾向がある」と指摘しています。これは、今いる場所を青々とした牧草地に変えるほうが簡単ですが、昇進を目指す確かな道のりは、自分が今いる場所で輝かしい活躍をすることだという意味です。顧客サービス外交は、輝かしい活躍を示すには、またとないチャンスになります。
ただし、これには前提があって、そういうことができる環境が自分の周りにあるということです。前述したコカ・コーラゼロのテレビCMに出てくるような組織の環境では、いくら意欲的な人が入ってきても、潰される(Rookie Crash)か、その人自身が周りにいる人たちのようになってしまうか、あるいは自分自身がそうなる前に脱出するかでしょう。
自己啓発書で知られる米国の作家であるDale Carnegie氏や米国の大手オンライン証券会社のThe Charles Schwab Corporationを見て気づくことがあります。それは、人と上手くやれる能力と人に影響を与える能力こそが最も価値あるスキルのひとつだということです。すなわち、卓越した顧客サービスの外交官(Customer Service Diplomat)としてのスキルのことです。ここで言う「人」とは、例の介護老人保健施設の施設長とその重鎮たちのような者以外の常識のある人のことです。
ここで、事例をひとつ紹介しましょう。この間、ある医療機関に行った時のことです。ここは、福祉分野も手掛ける複合体なのですが、そこの理事長と一緒に院内を歩くことがありました。
院内を回り始めてから間もなく、理事長が「この辺りにいる従業員を良く見ていただけませんか」と言って指をさしました。2人の見舞いに訪れたらしき人たちが病室の場所を探しているようでした。それにも関わらず、3人の従業員が外来病棟の近くにある通路に集まって、おしゃべりをしているのです。また、別の従業員は、受付のブースで10分近くも電話でしゃべり続けていました(聞こえてくる内容から、恐らく私用電話でしょう)。
2人の見舞いに訪れたらしき人たちは、病室を訪ねようとしてうろうろとしています。ようやく病室の場所を訊けるようになっても、その度に、従業員が指をさして分かりにくいルートを2つほど、早口で捲くし立てていました。
理事長は、私にこんな質問をしました。「こんな連中が、主任に昇進したり、サテライトの事業体のひとつを任されて施設長になったりする可能性が、どのくらいあると思いますか」と…これは、修辞疑問文です。つまり、答えを必要としない疑問文です。皆さんは、このような経験をこれまでに何度したでしょうか?
私は、別の医療機関で外来病棟の場所を訊く際に同様の質問をしてみました。すると、ある従業員が「外来病棟は、この通路を左に参りますとございます。ご案内させていただきます」と言って、外来病棟まで誘導してもらいました。外来病棟に行くと、病棟にいる看護師に私のことを紹介してから自分の持ち場へ戻っていきました。これこそが、顧客サービス外交なのです。
幸いにも、親切に応対していただいた従業員の上司に会いお話をする機会が持てました。「このような接客は、この病院の方針ですか?」という私の質問に、その人は「はい。当院では、全ての従業員にそのような接客指導をしていますが、少なくとも、この時間で勤務している従業員の中で、常にそのような接客ができているのは、彼女だけです。彼女には、まだ知らせていませんが、次にポストが空いたら、彼女を昇進させるつもりです」と返答しました。
みんながそうだからと、低い方に流されるのは簡単なことです。顧客に不満を感じたりすることは、容易いことなのです。容易いことだからこそ、決してしてはならないことなのです。
どのような組織や職種であっても、人間的にも卓越・進歩し、成功する人たちは、比較的少数派であることも事実です。そして、圧倒的多数の人たちは、全く進歩のない考え方の持ち主です。私たちの社会では、容易いことをしても得られる報酬は極僅かです。しかし、難しいことをすれば、得られる報酬は大きいものとなります。
真の卓越した顧客サービスの外交官になろうと努力した人たちは、確実に成功しています。
顧客サービス外交を上達させなければならない理由がもうひとつあります。これが上達することで仕事が、より楽しくできるようになります。
皆さんは、仕事中によるストレスやイライラの一番の原因は何だと思いますか?何が、私たちを疲れさせ、不機嫌にさせ、度重なる頭痛の原因になっているのでしょうか?
ストレスやイライラの多くは、日々、絶え間なく生じる小さな軋轢や衝突によるものです。このような軋轢や衝突のほとんどは、顧客サービス外交のスキルを用いて、減らすことができます。
Positive Feedback(好意的な反応)が得られれば、不快な思いを抱かないのは当然です。交流分析(TA:Transactional Analysis)では、Positive Strokeという専門用語を使って、受け取った人が、気分が良いと感じる存在認知を説明することが一般的です。また、Warm Fuzzy(暖かいお愛想⇔Cold Prickly:冷たいトゲ )という言葉が使われることもあります。
Positive Strokeは、精神的な抱擁のようなものと言えます。顧客サービスの仕事をしている人の大半は、このような望ましく、気持ちの良いPositive Feedbackを促す大きなチャンスを手にしています。このPositive Feedbackを得ることは簡単なのです。
Positive Strokeを得ることは簡単なことです。ただ、自分自身が、それを与えれば良いだけのことです。自分が与えたものが何倍にもなって戻って来るというのが、普遍的な法則なのです。
いくつか、簡単な例を挙げてみましょう。
- ありがとう。またお目にかかれて光栄です。
- お話できて、楽しかったです。
- 感謝します。
- 素敵なジャケット、ネクタイ、服装ですね。
- 素晴らしい選択をなさいました。
1日に何度、このようなちょっとしたStrokeを相手に与えることができるか、目標を設定するのです。そうすることで、自分自身が仕事の中で経験することが、実際、劇的に変わってくるでしょう。始めてすぐ、遅くとも数日の内に、その効果に気付くはずです。
Positive Strokeについて、Edward Clamer博士は、望ましい、前向きのDiscipline(規律)を考え出しました。
電報に似せた小さな黄色いメモ帳を作って、それを「ありがとう電報」と名付けました。これは、元々1日の終わりに、博士自身や博士の妻、子供たちが、その日、他の人たちと経験した楽しかった出来事について感謝する時間を持てるようにと、自分の家族のために作ったものです。そして、博士の家族は皆、毎日、何通もの「ありがとう電報」を書いて送ったのです。
この「ありがとう電報」を一日の終わりに、数分間、メモ帳や名刺の裏、あるいは、お礼のカードに、一言二言、感謝の言葉を書いて、その日、気持ち良く取引できた顧客に送るのも、良いかもしれません。感謝の言葉は、凝ったものでなくてもかまいません。
「ご来店いただき、私の一日を明るいものにして下さったことに感謝します」とか「お待ちいただき、ありがとうございました」でも良いのです。これを習慣にすることで、何を重視するかが、変わるのです。
もちろん、仕事をする上で、イライラしたり不愉快に感じたりすることはつきものです。上司や同僚、顧客が理不尽なことを言い出すかもしれませんし、その他の問題が起こるかもしれません。しかし、その日、何が起こったかということよりも、それに対してどう対応したかの方が重要なのです。
鴨が背中の水を振り払うように、自らを律して不愉快な出来事を振り払い、その日に出会った感じの良い人たちに心を集中させることができたら、前向きで、感じの良い人間になるのです。
一方、仕事で成功しやすい性格というのがあるのでしょうか?もちろんあります。権威あるHarvard Business Review誌が行なったアンケート調査をはじめ、いくつもの調査、研究で、そのことが示されています。
同誌の調査では、企業の重役や経営者を対象に、昇進に最も役立つ要素が何かをたずねたところ、スキルや適性と答えた人は、たった15%しかいませんでした。85%の答えが、態度、考え方に関するものだったのです。一流の顧客サービスの外交官(Customer Service Diplomat)になろうと努力することは、そのまま前向きで、生産的な態度、考え方を身に付けることにつながります。
顧客サービス外交(Customer Service Diplomacy)についてのお話は、これで終わります。幸いにして、私のアドバイス先は、このような心配をする必要もなく、着実に経営(運営ではありません)基盤を構築し、笑顔で2008年度を迎えられます。首都圏にある医療機関が倒産する時代、皆さんの法人は、どのような戦略を講じているのでしょうか。
話は変わりますが、この間、久しぶりに例の介護老人保健施設の施設長がやっている株式会社のホームページを見ました。相変わらずでしたが、根本となることが改善されていませんでした。
それは、代表をはじめとした役職者を紹介するページで、全員の名前に敬称(代表□□□□氏 ○○部長△△△△氏)を付けていたことです。こういうことは、あらゆる場面で以前から見られていたことでしたが、例え名目上とはいえ、自社の代表をはじめとした役職者に敬称を付けるということは常識から言っても考えられないことです。
皆さんの法人のホームページでも理事長をはじめとした役職者やスタッフを紹介するページがあると思いますが、このようなことは絶対にしていないはずです。私自身も医療福祉分野に限らず多くの法人のホームページを見てきましたが、このようなことをしているところは、ここ以外には見たことがありません。彼ら(施設長とその重鎮たち)は、そんなに自分たちのことが偉いと思っているのでしょうか。あるいは偉いと思わせたいのでしょうか。
この会社のホームページにも所在地や地図を載せているのですが、会社に訪ねてくるほとんどの人は、入るどころか行くことすらできません。従業員が必ず最寄駅まで行き、そこで済ませてしまおうとするからです。訪れる方の多く(特に地方から来られた方)は、不思議に思うでしょう。頑なに訪問を拒むのですから…
彼らが訪問を頑なに拒むのは、そこがマンションの一室だからです。ですが、首都圏ではマンションの一室を会社にしているところが多いのも事実です。それは、同じスペースをビルとマンションで賃貸料を比較した場合、マンションにした方がコスト的にも負担が掛からない場合が多いからです。これは、決して悪いことではありません。むしろ会社の規模や従業員数を考えれば、正しい選択です。
この会社のホームページや従業員の名刺など、会社の所在地を記してあるものには、当然、番地止まりでマンション名や部屋番号は、一切明記されていません。しかも、代表電話に掛けると、その多くは例の介護老人保健施設の近所にあるこの会社の本体へ転送されています。電話を掛けた人は、市内局番で掛けているつもりでも、実際には、地方にあるこの会社の本体へ、市外局番で掛けていることになります(FAXも同様)。
何故、そこまでするのでしょうか。マンションの一室に会社があることが、隠し通さなければいけないほど、恥ずかしいことなのでしょうか。普段の対応(「教えてあげているんだから」「言ってやった」等)やホームページで代表をはじめとした役職者を敬称付きで紹介するくらいですから、このようなことはある意味納得できる面でもあります。コカ・コーラゼロのテレビCMに出てくるような組織ですから、あきらめるしかありません。いずれにせよ、世間の審判がこの会社だけでなく、介護老人保健施設のほうにも下ることでしょう。




