第17回 これから必要とされる経営革新ツール

 皆さんは、TOC(Theory Of Constraints:制約条件の理論)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。近年、民間企業の経営手法のツールとして注目されている理論です。世界21ヵ国で翻訳され400万部を超えるベストセラーとなったビジネス小説『The Goal』(日本語版は2001年出版)で有名になったものです。
 TOCは、イスラエルの物理学者エリヤフ.M.ゴールドラット博士が1980年代に米国で提唱された生産スケジューリングをベースとした経営手法のことです。当初は1970年代前半に「工場の生産性はボトルネック工程の能力以上は絶対に向上しない」という原理をゴールドラット博士が提唱しました。それは、工場の生産性を上げるためにネック工程に同期させる生産を行い、資材調達もネック工程に同期させるようにした結果、生産性が飛躍的に高まり仕掛かりや在庫が劇的に減少することを実証したのです。それが、後にTOCとして普及していったのです。
 また、現在では組織の目指す目標を絶えず達成し続けるための組織経営理論IES(Integrated Enterprise Scheduling:企業統合スケジューリング)、セールス・マーケティングの領域をもカバーする統合手法へと発展しています。
 IESとは、その名のとおり、部品や資材の調達とその物流を含めた企業活動全体を1つのSupply Chain System(川上から川下までの全過程を情報と製品の流れを効率化して無駄をなくす手法)として捉えて最適化することを狙ったものです。
 これらは、POOGI(Process of ongoing Improvement:組織の継続的改善)に向けて「足りないものは何か」を明らかにして、それを論理的かつ系統的に補う方法を提供していきます。そして、「現在から将来にわたって利益を出し続ける」というゴールの達成を妨げるConstraints(制約条件)に注目し、組織内共通の目標を識別し改善を進める事で、業績に急速な改善をもたらします。すなわちTOCとは企業収益の鍵を握る「制約条件」にフォーカスすることで、最小の労力で最大の効果(利益)を上げるということなのです。
 TOCは、米国においてインテルP&Gなど世界に名だたる企業だけでなく自治体医療機関幼児教育分野軍隊など多岐にわたって導入されていて、大きな成果を収めています。それだけでなく大学ビジネススクールでも教えられています。一方、日本でも富士通NECエプソン日立ツール日立金属などの大手企業を中心に導入され、目覚しい成果が報告されています。
 それでは、TOCにおける主な4つの視点を述べてみたいと思います。
1)思考プロセス
 組織内部に変化を生み出し実行するための体系的なアプローチを提供するもので、市場需要の開拓組織内部に根深い対立を伴う問題に対処する際にも用いられます。
2)DBR (Drum Buffer Rope)
 生産全体を制約条件工程にフォーカスして、ボトルネック工程の能力最大限に発揮させる生産管理手法のことです。
 ドラム(Drum):能力に制約のある工程能力のこと
 バッファー(Buffer):制約工程をフル稼働させるためにあらかじめ設定しておいた「時間的な余裕」のこと
 ロープ(Rope):初工程(制約条件より前の工程)への原材料の投入タイミングを制限する時間的な条件のこと
3)Critical Chain
 人間の行動特性アルゴリズムに焦点を合わせて、全体最適化(安全余裕の集約)の観点から目標スコープ予定コスト維持することでプロジェクト期間大幅に短縮することができるプロジェクト管理手法のことです。すなわち、高い不確実性の下で、マルチプロジェクトというパイプラインの中で、業務のフロー能率的かつ効果的に流すためのブレークスルー(問題解決方法)だということです。
4)スループット会計(Throughput Accounting)
 時間あたりの利益をマネジメントする方法論のことです。時間あたりのキャッシュを最大化するのに適した考え方を取り入れることで、製品別の採算性評価をする際などに用いられます。各製品が生み出す時間あたりの利益を把握することで、販売の優先順位や業務プロセスに潜む改善ポイントを見つけ出すことができます。現在では、組織内部の改善から全体の収益を最大にする経営革新手法発展しています。

 いかがだったでしょうか。特に日本の医療福祉業界にまず取り入れなければならないことは、組織体制を内部から変革していくことです。そのためにも「思考プロセス」を徹底的に行う必要があります。これができなければ、他に挙げた「DBR」や「Critical Chain」、「スループット会計」などは、例え導入できたとしても成功はしません
 激動の中にある日本の医療福祉業界民間企業の経営手法導入されてきているということは、皆さんも周知のことと思います。現在、日本の医療福祉業界に定着しつつあるBSC(Balanced Scorecard:バランストスコアカード)のように今後、TOC経営革新ツールとして導入されていくことでしょう。

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